法務通信―新時代― Vol.4
今、進学や就職と人生における節目の季節ですが、それぞれ「在学契約」「雇用契約」などさまざまな契約をすることになります。それらがトラブルなく経過するなら法律の出番はないでしょう。しかし、契約はさまざまですからそれなりにトラブルが発生します。そこで新生活をスタートされる皆さん、契約とは何かをちょっとだけ考えてみませんか。
契約自由の原則
まず、法律にはそれぞれの目的があります。たとえば、刑法なら、市民の命や暮らしを守る、道交法なら、交通秩序の維持と安全を目的とするというように、法律はそれらの目的を実現するために作られています。したがって、目的によっては、絶対に守ってもらわなければならない法律と民法のように、ある程度大きな枠の中で、自分たちの判断で、自由に意思決定のできる法律も必要なのです。
そこで、民法は結婚や契約など、人々の自由な意思を尊重し、それに基づいたルール作りを支援する法律といえます。たとえば、商品の売買契約は誰と何をいくらで契約しても自由な意思の合致があれば成立します。これを「契約自由の原則」といいます。ただし、民法は、90条で公序良俗に反する契約を無効とする、と一定の歯止めをかけています。
さらに、未成年者や精神の障害などで十分な意思表示ができない人の保護と、判断力のある大人であっても重大な勘違いや騙されて契約させられた人などを保護しています。
そこで、社会問題である騙される振り込め詐欺を民法上から考えてみましょう。
振り込め詐欺と民法
さて、契約は自由であるとすると、還付金詐欺でもオレオレ詐欺でも何かの契約した以上は債権・債務が生じるが、振り込め詐欺の場合は、「騙されて」存在しない債務を代わって支払うことだから、電話してきた相手と何かの契約を結ぶというわけでもない。唯一、契約といえるのは、騙された振込人と銀行との間で「振り込み契約」が成立したことです。

騙された人を保護する場合は、この契約を民法96条で取り消せばよいわけですが、問題は、銀行が詐欺をしたわけでもなく、善意の第三者なので、この振込契約は取り消せないことになります。では振込先の口座にあるうちなら銀行に返せと言えるかというと、銀行は事情がはっきりしなければ、顧客の利益ということで支払いを拒めるのです。そこで、この問題を解決するために、ある判例は、口座にまだお金が残っている段階なら、民法423条の「債権者代位権」を行使して、被害者の犯人に対する「不当利得返還請求権」を実現させるために、犯人の銀行に対する「預金払戻請求権」を代わって行使することを認めました。これなら犯人が誰だかわからなくて契約を取り消せなくても返還請求ができることになりますね。
民法の規定はここまでです。犯人が捕まらなければ、法的に契約を取り消すといってもかなり大変なことがおわかりいただけたと思います。
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